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簡単な積分変換に対してファンク-ヘッケの因子 $m_k$ を計算してみます。今回扱う積分変換は

\begin{align} \mathscr{K}f(y)=\int_{S_y}f\omega \end{align}

$S_y$ は $y\in S^{n-1}$ を頂点とする $n-1$ 次元半球面です。この積分変換はファンク変換と呼ばれています。では早速 $m_k$ を計算してみましょう。

まず、式を簡単にするために、ロドリゲスの公式で表されるルジャンドル多項式を

\begin{align} &P_{k,n}=A_{k,n}(1-t^2)^{-(n-3)/2}\partial^k(1-t^2)^{k+(n-3)/2},\\ &A_{k,n}=\dfrac{\Gamma((n-1)/2)}{(-1)^k2^k\Gamma(k+(n-1)/2)} \end{align}

と書いておきます。

\begin{align} m_k&=\sigma_{n-2}\int_0^1(1-t^2)^{(n-3)/2}P_{k,n}\,dt\\ &=\sigma_{n-2}A_{k,n}\int_0^1\partial^k(1-t^2)^{k+(n-3)/2}\,dt \end{align}

$k=0$ のときは

\begin{align} m_0&=\sigma_{n-2}A_{0,n}\int_0^1(1-t^2)^{(n-3)/2}\,dt\\ &=\sigma_{n-2}A_{0,n}\int_0^{\pi/2}\cos^{n-2}\theta\,d\theta \end{align}

この定積分の項は $n=2$ のときは

\begin{align} \int_0^{\pi/2}d\theta=\dfrac{\pi}{2} \end{align}

$n=3$ のときは

\begin{align} \int_0^{\pi/2}\cos\theta\,d\theta=[\sin\theta]_0^{\pi/2}=1 \end{align}

$n\ge 4$ のときは

\begin{align} \int_0^{\pi/2}\cos^{n-2}\theta\,d\theta&=(n-3)\int_0^{\pi/2}\sin^2\theta\cos^{n-4}\theta\,d\theta\\ &=(n-3)\int_0^{\pi/2}\cos^{n-4}\theta\,d\theta-(n-3)\int_0^{\pi/2}\cos^{n-2}\theta\,d\theta \end{align}

すなわち

\begin{align} \int_0^{\pi/2}\cos^{n-2}\theta\,d\theta&=(n-3)\int_0^{\pi/2}\sin^2\theta\cos^{n-4}\theta\,d\theta\\ &=\dfrac{n-3}{n-2}\int_0^{\pi/2}\cos^{n-4}\theta\,d\theta \end{align}

という等比数列になっています。この数列を解くと

\begin{align} \int_0^{\pi/2}\cos^{n-2}\theta\,d\theta=\dfrac{\Gamma(1/2)\Gamma((n-1)/2)}{2\Gamma(n/2)} \end{align}

以上より

\begin{align} m_0=\sigma_{n-2}A_{0,n}\dfrac{\Gamma(1/2)\Gamma((n-1)/2)}{2\Gamma(n/2)} \end{align}

$k\ge 1$ のときは

\begin{align} m_k&=\sigma_{n-2}A_{k,n}[\partial^{k-1}(1-t^2)^{k-1+(n-1)/2}]_0^1\\ &=\sigma_{n-2}A_{k,n}[(1-t^2)^{(n-1)/2}(1-t^2)^{-(n-1)/2}\partial^{k-1}(1-t^2)^{k-1+(n-1)/2}]_0^1\\ &=\dfrac{\sigma_{n-2}A_{k,n}}{A_{k-1,n+2}}[(1-t^2)^{(n-1)/2}P_{k-1,n+2}]_0^1\\ &=-\dfrac{\sigma_{n-2}A_{k,n}}{A_{k-1,n+2}}P_{k-1,n+2}(0) \end{align}

以上ですべての因子 $m_k$ が求まりました。$m_k\neq 0$ なる $k$ に対して $H^k$ が張る関数空間上でのみ反転公式は存在するので、最後に $m_k\neq 0$ を解く必要があります。

奇数次のルジャンドル多項式の原点での値は零なので $2$ 以上の偶数 $k$ に対しては $m_k=0$ となります。一方、偶数次のルジャンドル多項式の原点での値は消えないので奇数 $k$ に対しては $m_k\neq 0$ です。$m_0\neq 0$ は明らかですね。

今回はここまで。次回はファンク変換の反転公式をヒルベルト変換の応用という立場で考えていきましょう。(written by J.Nishigata)

ファンク-ヘッケの定理を使ったファンク変換の解析