AlxisDataBlog-数学・物理学

$\alpha > 0$ とします。$2$ 階微分連続な関数 $f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^+$ に対して

\begin{align} \nu:S^{n-1}\ni x\mapsto \dfrac{\alpha fx+(\partial_xf)x-\nabla f}{\sqrt{(\alpha f)^2-(\partial_x f)^2+\|\nabla f\|^2}} \end{align}

と定義します。$th(t)$ が狭義単調となるような関数 $h:\mathbb{R}^+\to\mathbb{R}^+$ に対して

\begin{align} &Wf(x)=\dfrac{f(x)(hf)(x)}{\langle x,\nu(x)\rangle},\\ &\mathscr{K}f(y)=\int_{S_y}\{1+\langle x,y\rangle\}Wf\omega \end{align}

この積分変換(ウィンターニッツ変換という)を今回は考えます。既にファンク変換と半球面コサイン変換をやっているので $Wf$ に関して一意的に解くことはできますね。したがって問題は $W$ が球面上の関数に関して単射であるか否かという点です。

\begin{align} \alpha Wf(x)=(hf)(x)\sqrt{(\alpha f)^2-(\partial_x f)^2+\|\nabla f\|^2} \end{align}

見ての通り $W$ は非線形作用素ですので、線型のときのような $Wf=0$ から $f=0$ を導く方法は使えません。$Wf=Wg$ から $f=g$ を証明します。方針は、$f(x_0) < g(x_0)$ なる $x_0\in S^{n-1}$ が存在すると仮定して矛盾を導くという背理法によります。難しそうですがやっていきましょう。

$th(t)$ は狭義単調なので、増加若しくは減少で場合分けが必要です。まずは $th(t)$ が狭義単調減少の場合を考えましょう。

\begin{align} -(\partial_xf)^2+\|\nabla f\|^2=\{(\partial_x f)x-\nabla f\}^2\ge 0 \end{align}

であることに注意すると

\begin{align} (\alpha Wf(x_0))^2\ge\{\alpha f(x_0)(hf)(x_0)\}^2 \end{align}

が成り立ちます。ここで左辺は $(\alpha Wg(x_0))^2$ に等しく、右辺は $\{\alpha g(x_0)(hg)(x_0)\}^2$ で下から評価できます。したがって

\begin{align} -(\partial_xg(x_0))^2+\|\nabla g(x_0)\|^2 > 0 \end{align}

が成り立ちますね。$x_0$ を初期値とする微分方程式

\begin{align} x(0)=x_0,\ \partial x=-(\partial_xg)x+\nabla g \end{align}

の解 $x=x_1(t)$ を考えましょう。$2$ つ前の式から $\partial x_1(0)\neq 0$ が分かります。ここで微分方程式の解の一意性定理を考えると、常に $\partial x_1\neq 0$ の成立が言えます。この曲線 $x_1$ の性質を調べてみましょう。

$x_1$ の弧長を

\begin{align} l_1(t)=\int_0^t\|\partial x_1\|\,dt \end{align}

とおきます。$\partial l_1 > 0$ より $l_1$ の逆関数 $l_1^{-1}$ が一意的に存在して、その導関数は

\begin{align} \partial l_1^{-1}(s)=\dfrac{1}{\partial l_1(t)}=\dfrac{1}{\|\partial x_1(t)\|},\ s=l_1(t) \end{align}

です。これは後程弧長表示するときに使います。$x_1\in S^{n-1}$ も成立しそうな気がします。確かめてみましょう。

或る $t_2$ が存在して $x_1(t_2)\not\in S^{n-1}$ であると仮定して背理法を使います。$t_1 < t_2,x_1(t_1)\in S^{n-1},x_1\big|(t_1,t_2]\not\in S^{n-1}$ なる $t_1$ をとりましょう。

\begin{align} \dfrac{\partial\|x_1\|^2}{\|x_1\|^2-1}=\dfrac{2\langle x_1,\partial x_1\rangle}{\|x_1\|^2-1} \end{align}

右辺に微分方程式の $\partial x_1$ を代入すれば

\begin{align} \dfrac{\partial\|x_1\|^2}{\|x_1\|^2-1}=-2\partial_{x_1}g \end{align}

これを $[t_1+\varepsilon,t_2]$ の区間で積分してみます。

\begin{align} \log\big|\|x_1(t_2)\|^2-1\big|-\log\big|\|x_1(t_1+\varepsilon)\|^2-1\big|=-2\int_{t_1+\varepsilon}^{t_2}\partial_{x_1}g\,dt \end{align}

$\varepsilon\to 0$ の極限で左辺は発散し、右辺は収束します。したがって背理法により $x_1\in S^{n-1}$ であることが分かりました。$\langle x_1,\partial x_1\rangle=0$ ですので

\begin{align} \partial (gx_1)=\langle \partial x_1,\nabla g\rangle \end{align}

右辺に微分方程式を代入して

\begin{align} \partial (gx_1)=\langle \partial x_1,\partial x_1+(\partial_{x_1}g)x_1\rangle=\|\partial x_1\|^2 \end{align}

が成立します。これを弧長表示 $t=l_1^{-1}(s)$ に直してみましょう。

\begin{align} \partial (gx_1l_1^{-1})(s)=\partial l_1^{-1}(s)\partial (gx_1)(t)=\|\partial x_1(t)\| \end{align}

これを用いて

\begin{align} -\partial_{x_1}g(x_1)^2+\|\nabla g(x_1)\|^2=\|\{\partial_{x_1}g(x_1)\}x_1-\nabla g(x_1)\|^2=\|\partial x_1\|^2=\partial (gx_1l_1^{-1})^2 \end{align}

以上で証明するための準備が整いました。今回はここまで。次回は続きをやります。(written by J.Nishigata)

ウィンターニッツ変換その１