AlxisDataBlog-数学・物理学

前回は球面調和関数が球面ラプラシアンの固有関数であることを調べました。この性質は球面調和関数の便利さの理由のひとつなのですが、もう一つ便利な性質として直交性を調べてみたいと思います。

まず考えなければならないことは、「直交とは何か」ということです。数ベクトルを思い出してください。直交とは零ではない 2 つのベクトルの内積が零であることを意味します。今の場合では、まず球面上の関数に対する内積を定義する必要がありそうです。

\begin{align} \langle f_1,f_2\rangle_2=\int_{S^2}f_1f_2\,dS \end{align}

数ベクトルの内積の総和計算を積分に置き換えたと考えればしっくりくるでしょう。このような内積を $L_2$ 計量と呼びます。これを用いると、直交とは恒等的に零ではない球面上の関数 $f_1,f_2$ に対して

\begin{align} \langle f_1,f_2\rangle_2=0 \end{align}

が成立することだと言えます。ここに球面調和関数を代入したらどうなるでしょうか。少しテクニカルなのですが $(f\Delta g-g\Delta f)\,dV$ が完全形式であることを使います。連結領域 $\Omega$ で $f\Delta g-g\Delta f$ を積分すると、ストークスの公式を用いて

\begin{align} \int_{\Omega}(f\Delta g-g\Delta f)\,dV=\int_{\partial\Omega}(f\partial_ng-g\partial_nf)\,dS \end{align}

が得られます。ここで $n$ は $\partial\Omega$ の外向き単位法線ベクトル場です。球面調和関数を

\begin{align} f(x)=\tilde{f}(x/\|x\|),\ g(x)=\tilde{g}(x/\|x\|),\ \tilde{f}\in H^j,\tilde{g}\in H^k \end{align}

のように零を除く空間全体に拡張して代入すると右辺は消えて

\begin{align} \int_{\Omega}(f\Delta g-g\Delta f)\,dV=0 \end{align}

となります。あとは球面調和関数の性質を使って左辺を計算していけば良いです。まずラプラシアンの球面極座標への変換式を用いて

\begin{align} f\Delta g-g\Delta f=\dfrac{f\Delta^Sg-g\Delta^Sf}{\|x\|^2} \end{align}

$f,g$ のそれぞれの固有値を $\lambda_j,\lambda_k$ とおいて、球面ラプラシアンの固有方程式より

\begin{align} \dfrac{f\Delta^Sg-g\Delta^Sf}{\|x\|^2}=\dfrac{\lambda_k-\lambda_j}{\|x\|^2}fg \end{align}

と変形します。これを特異点 $x=0$ が除かれた例えば $\Omega=B(2)-B(1)$ ($B(a)$ は半径 $a$ の球体)の場合に代入すると

\begin{align} \int_{\Omega}(f\Delta g-g\Delta f)\,dV=(\lambda_k-\lambda_j)\langle\tilde{f},\tilde{g}\rangle_2 \end{align}

となります。固有値は $\lambda_j=-j(j+1)$ だったので、$j\neq k$ ならば $\lambda_j\neq\lambda_k$ も成り立ちます。以上より

\begin{align} j\neq k\Longrightarrow\langle\tilde{f},\tilde{g}\rangle_2=0 \end{align}

直交性が証明できましたね。直交性の証明ついでに、各調和関数空間に正規直交基底をとっておきましょう。

\begin{align} Y_{jk},Y_{jl}\in H^j,\ \langle Y_{jk},Y_{jl}\rangle_2=\delta_{kl} \end{align}

球面調和関数空間の直交性と合わせると

\begin{align} \langle Y_{ij},Y_{kl}\rangle_2=\delta_{ik}\delta_{jl} \end{align}

というきれいな式になります。直交性の便利なところは直交分解ができるところです。球面調和関数の和で書ける関数はすべて一意的に直交分解できます。

\begin{align} f=\sum_{j,k}\langle Y_{jk},f\rangle_2Y_{jk} \end{align}

今回はこの辺まで。次回は調和関数空間の直和空間の大きさを調べていきます。便利なものは広い範囲で使いたいですね。(written by J.Nishigata)