AlxisDataBlog-数学・物理学

前回は球面調和関数の回転の話をしました。この性質を使って今回は次の 2 次対称テンソルの性質を調べていきます。

\begin{align} P(x,y)=\sum_{l=1}^{N_k} Y_{kl}(x)Y_{kl}(y),\ N_k=\dim H^k \end{align}

$x$ と $y$ をそれぞれ同じだけ回転させても上の式の値は変わらなさそうな雰囲気がありますがどうでしょうか。確かめてみましょう。関数を回転させるということは、相対的に変数を逆回転させることに等価です。したがって回転変換 $R$ に対して

\begin{align} P(R^{-1}x,R^{-1}y)=\sum_{l=1}^{N_k} RY_{kl}(x)RY_{kl}(y) \end{align}

と書けます。$k$ 次球面調和関数の回転は $k$ 次球面調和関数ですから、線型結合で

\begin{align} RY_{kl}=\sum_{i=1}^{N_k}r_{li}Y_{ki} \end{align}

と書いておくことにしましょう。この表現行列は

\begin{align} \delta_{lm}&=\langle Y_{kl},Y_{km}\rangle_2=\langle RY_{kl},RY_{km}\rangle_2\\ &=\sum_{i,j=1}^{N_k}r_{li}r_{mj}\langle Y_{ki},Y_{kj}\rangle_2\\ &=\sum_{i,j=1}^{N_k}r_{li}r_{mj}\delta_{ij}\\ &=\sum_{i=1}^{N_k}r_{li}r_{mi} \end{align}

より正規直交行列ですね。したがって行列の掛け算の順序を変えた

\begin{align} \sum_{l=1}^{N_k} r_{li}r_{lj}=\delta_{ij} \end{align}

も成立します。これを使うと

\begin{align} P(R^{-1}x,R^{-1}y)&=\sum_{i,j,l=1}^{N_k} r_{li}r_{lj}Y_{ki}(x)Y_{kj}(y)\\ &=\sum_{i,j=1}^{N_k} \delta_{ij}Y_{ki}(x)Y_{kj}(y)\\ &=\sum_{i=1}^{N_k}Y_{ki}(x)Y_{ki}(y)=P(x,y) \end{align}

関数 $P$ は回転に依存しないことが分りました。回転に依存しないということは、$P$ の値は $x$ と $y$ の内積だけの関数になることがわかります。

\begin{align} P(x,y)=Q(\langle x,y\rangle) \end{align}

$P$ は変数 $x$ に関して $k$ 次の球面調和関数ですが、この性質を $Q$ はどのようにしてもつのでしょうか。変数 $x$ に関する球面ラプラシアンを掛けてみましょう。左辺は簡単に

\begin{align} \Delta_x^SP=\lambda_k P \end{align}

となります。一方、右辺は球面極座標を使って計算すると

\begin{align} &\bigg(\dfrac{\partial_{\theta}^2}{\sin^2\varphi}+\partial_{\varphi}^2+\dfrac{\cos\varphi\partial_{\varphi}}{\sin\varphi}\bigg)Q(y^1\cos\theta\sin\varphi+y^2\sin\theta\sin\varphi+y^3\cos\varphi)\\ &=\{1-\langle x,y\rangle^2\}\partial^2Q-2\langle x,y\rangle\partial Q \end{align}

すなわち $Q$ は

\begin{align} \lambda_kQ=(1-t^2)\partial^2Q-2t\partial Q \end{align}

の解になっていることが分ります。この方程式にはルジャンドル方程式という名前が付いています。球面調和関数の性質がルジャンドル方程式という形で引き継がれているわけですね。

今回はここまで。次回はルジャンドル方程式に挑戦してみましょう。(written by J.Nishigata)

球面調和関数による 2 次対称テンソルの性質